「みかんの丘」(2013)と「とうもろこしの島」(2014)は、いずれもコーカサス山脈の南にある歴史ある国ジョージア(グルジア)の近年を代表する傑作である。 ジョージア映画の伝統は、世界の映画史とともにあり、ソ連邦の一共和国だった時代(~1991)には、ギオルギ・シェンゲラヤ監督(「放浪の画家ピロスマニ」)、 フランスで活動を続けるオタール・イオセリアーニ監督(「田園詩」)、テンギズ・アブラゼ監督(「懺悔」)等、多くの優れた映画人が、独特の文化、 風土を背景にして数々の個性的な名作を発表し、国際的に高い評価を得てきた。
しかし、1991年にソ連邦が崩壊し、その一共和国だったジョージアは独立、国内で民族主義が高まるなかで、西部のアブハジア自治共和国が反発し、 1992年に、両者の間で激しい戦闘が起こった。アブハジア紛争といわれるこの戦争は、同時代に起こった内戦とともに、ジョージアの社会全般に壊滅的な打撃を及ぼし、 多くの難民が生まれて、国は荒廃、経済も文化も低迷し、輝かしい映画の伝統は途絶えた。この2作品は、近年、奇跡的によみがえったジョージア映画の新しい世代を象徴し、 アブハジア紛争をそれぞれ異なる視点で描いて、いずれの作品も世界の映画祭で数多くの受賞に輝いた。
「みかんの丘」と「とうもろこしの島」、いずれの作品もジョージア映画特有のユーモアや人間的な温もりがあり、観る者にあたたかく力強い感動を残す。 主人公たちは戦火におかれても人間らしさ、人間としての営みを失うことはない。みかんを収穫し、とうもろこしを育て、敵味方隔てなく傷ついた者を助ける。 ――いったい戦争とはなんのために行うのか。誰が行うものなのか。戦争の不条理、愚かさを観る者に痛烈につきつけてくる。 アブハジア紛争が、双方の人々にもたらした傷は計り知れない。しかし彼らは苦しみ、模索しながらも、戦争によるあらゆる困難を乗り越えようとしている。 この2作品は、戦火の絶え間ない時代を生きる私たちに、人間の寛容性、人間の誇りやその営みの意味を示し、争いによる憎しみの連鎖を断とうとする強い願いがこめられている。
コーカサスの南にある国ジョージア(グルジア)で、1991年のソ連邦解体をはさんで激化した紛争。 ジョージア内に自治共和国としてあったアブハジアは、ジョージア人と異なるアブハジア人が居住する地域。 人々は歴史、文化、宗教、言語等、独自の民族アイデンティティを持つ。1980年代後半、ジョージアの民族主義者が統合を主張したことに対して、 アブハジアが反発。分離独立の気運が高まり、1992年のアブハジア独立宣言後、大規模な軍事衝突が続き、多くの犠牲者、難民がでる。 1994年に停戦合意が成立したが、今日も緊張が続いている。